DSHも筆記試験と口頭試験から成り立っています。筆記試験でDSH1以上の成績を取ったものだけが、口頭試験に進めます。筆記試験と口頭試験は、それぞれ別々に評価されますが、たとえば筆記でDSH3、口頭でDSH1の成績を取った場合でも、総合評価はDSH1となり、筆記と口頭の成績が平準化されるのではなく、成績の悪い方になってしまうのが悲しいところです。筆記と口頭の成績が逆でも同じ現象が起こります。
DSHの構成要素は以下のとおり。
筆記試験
1. Hörverstehen聞き取り(ヒアリング) (約60分:50点満点)
2. Textproduktion作文 (60分:100点満点)
3. Leseverstehen読解 (4と合わせて90分:50点満点)
4. Wissenschaftssprachliche Strukturen科学的表現に関する構文=文法書換問題
(3と合わせて90分:25点満点)
口頭試験
5. 自己紹介・大学の志望動機など
6. 専門分野に関連する文章の要約と質疑応答
DSHの筆記試験の評価方法は、ちょっと複雑です。4つの項目毎に、まず正解率の%を計算します。1から3までの項目はその%を二乗し、さらに4の%を足して、7で除して得られた%が筆記試験の%となります。私の場合、1の聞き取りが74%、2の作文が86.5%、3の読解が74%、4の構文問題が74%だったので、(74x2+86.5x2+74x2+74)÷7=77.57%→78%でDSH2という結果になりました。そして、口頭試験の結果は88%だったので、口頭試験だけではDSH3なのですが、トータルでは低い方のスコアになりますので、最終結果はDSH2となりました。
1. Hörverstehen
DSHは聞き取りから始まります。LMUのDSHの場合、テープではなく、試験官(付属ドイツ語学校の教師)が文章を読み上げます。最初は問題を見せてもらえず、いきなり全体を通してノンストップで読まれます。しかし、非常にクリアに比較的ゆっくり読み上げられるので、ZOPよりは内容を聞き取りやすいと思います。その後、問題と解答用紙が配られ10分間時間が与えられます。それから、2回目の読み上げが行われますが、ZOPと異なり、途中で止まらないので、聞きながら解答に必要な部分をメモしなければなりません。
DSHの聞き取り問題の特徴は、一部要約という課題があることです。要約の対象となる箇所については、試験官が読み上げる際に指示をしますが、2回聞いただけの内容を非常に限られた時間内で纏め上げるのは、思った以上に大変です。しかも、読み上げられる文章の内容が、比較的自然科学系なものが多く、独特の実験内容などを書き取るのは、人文・社会科学系の受験者にとって、決して容易ではありません。要約以外の各問の数は10問くらいだったでしょうか。解答時間は2回目の読み上げ後40分です。ZOPと違って特に指示がない限り、キーワードでなく文章で解答するのが原則です。しかし、ここではスペルミス等は減点対象になりません。
ここで大事なことは、質問の意味をよく考えて解答することです。質問をよく読まないで慌てて解答すると、とんちんかんな答えになってしまいます。質問はストレートなものばかりではありませんから、気をつけましょう。
2. Textproduktion
次は作文です。1の聞き取りと2の作文の間に休憩はありません。1の問題・解答用紙が回収されると同時に、作文の問題と解答用紙が配られます。ちなみに、問題は最前列から配られますから(回収も
一応最前列からですが)、なるべく前に座った方がいいと思います。
DSHの作文は、ZOPとはかなり趣が異なります。まず、グラフや図などの情報が与えられますので、その情報についての説明を書かなければなりません。それから、その与えられた情報についての個人的見解など、問題文をよく読んで、要求されている内容について論じることになります。最低200字書かなければなりませんが、長く書くのは減点される隙が出るので、なるべく必要最小限の字数にまとめることが無難です。
DSHの作文では、このグラフや図など与えられた情報について、どうやって説明するかが成功のキモになります。ここでは、客観的なことしか書いてはいけません。また、この部分は5つくらいのセンテンス(文章)で簡潔にまとめることが重要で、出ている情報すべてをダラダラ書いたら減点されます。その後の個人的見解など主観的な内容を書く部分は5センテンス以上書いて、全体のバランスがとれるようにします。ZOP同様、論理的に簡潔に、かつ多様な表現を駆使して書くことが大事ですから、いきなり書き始めるのでなく、最初に構成をしっかり練ることが必要です。
私が通ったDIDのDSH準備コースでは、グラフや図を説明する表現方法を習いましたが、実際にどんな観点で採点されるのかは、LMU付属ドイツ語学校の直前講座の模擬試験の講評で詳しく説明されるまで、よくわかっていませんでした。DSHについては、市販の問題集がいくつか出ていますが、市販の問題集より、LMUのDSHは若干難しいと思います。したがって、LMUを受験する場合には付属語学学校が主催するこの直前講座に参加することを強くお勧めします。
作文までが終わったところで、10分程度のトイレ休憩があります。
3. Leseverstehen
A4用紙1枚半~2枚程度の文章を読んで、文章の内容に関する質問に解答します。文章の内容は、新聞記事が主流のZOPよりも大学入試を意識した社会科学・自然科学的な内容になっています。出題の傾向は、その時々によってかなり違うようです。たとえば、各段落毎に合致するタイトルを選ぶという問題が出るときもありますし、全体を読んで与えられた項目毎に要点を表にまとめるという問題が出るときもあります。文章中のある表現を自分の言葉で説明するという問題が出るときもあれば、複数の意味を持つ文章中の単語が、当該文章中どの意味で使われているか選択させる問題が出ることもあります。必ず出題されるのは、内容の理解を問う6~7問と、文章中の指示代名詞等が何を指しているのかを問う問題5問ほどのようです。
4. Wissenschaftssprachliche Strukturen
3で読んだ内容に関連した出題ですが、ZOPと似たような穴埋め書き換え問題です。10問弱出題されます。ここでも、問題文をよく読むことが大事です。ZOPと違うのは、必ず1題接続法I (間接話法)が出題されること。また、元の文章(例:このオス猫は不細工だったので、里親が見つからず残っていた)を接続法IIの過去形で書き直す(解答例:このオス猫が小奇麗だったら、もっと早く里子に出られただろう)問題もよく見られます。
ZOPと違うところは、筆記試験の成績は完全に平準化されるということです。しかも、いわゆる純粋に文法を問う問題の比重が低いので、ここが苦手でも、他の項目で高得点が取れれば、十分カバーが可能だということです。
ここまでで筆記試験は終わり。結果はインターネット上で公表されますが、受験者にのみユーザーネームとパスワードが知らされますので、一般の方がご覧になることはできません。
5.~6. 口頭試験
各専攻毎に多少は専門分野に関係する内容の文章A4用紙1枚弱を渡され、10分間読みます。法学専攻の私の場合は、選挙権に関する内容でした。準備の間、独独辞書を使うことはできますが、メモを取ったり下線を引いたりして準備はできません。試験室には2人の試験官がいます。最初に3~5分ほど、自己紹介の後、自分のドイツ語学習歴や母国の大学で勉強したこと、LMUで何を勉強したいか、について試験官と会話します。それから、読まされた文章について、内容を要約します。ここでも、たくさん話す必要はなく、5センテンスくらいにまとめます。難しい表現を使う必要はなく、自分の語彙で正確に話せるかが評価の際に重視されているようです。ZOP同様ここで大事なポイントを落とさないようにしましょう。その後、試験官がランダムに質問してきます。試験官との自由な会話は、DSHの方が長かったです。大体、母国のことを聞かれます。質問には間髪をいれず答える必要はなく、「ちょっと考えさせて下さい」とか、「質問を正しく理解できたかわかりませんので、もう一度お願いします」という風に、ごく自然に普通の会話が途切れないように出来れば、そんなにすらすら話す必要はないようです。
口頭試験の翌日には、最終成績が出ます。画像は、私が使用した独独辞書と自習用の問題集。試験会場には、独独辞書を持って入ることが可能ですが、時間が限られているので、ほとんど辞書を引く時間はなかったです。